スウェットロッジ

準備ができたと知らせが入る

いよいよスウェットロッジに入る時がきた
祈りを捧げて四つん這いで入口を潜る
幾重にも毛布やシートを重ねた暗闇のドームの中
手探りで自分の場に座る

全員が中に入り終えると祈りが捧げられ
合図とともに入口から赤く焼けた溶岩が運びこまれ
ロッジの中心に大きく掘られた穴に投げ込まれる
幾つも幾つも、、、

30個ほどの溶岩が積まれた中心部は
よく見えないけれど近寄れない程の熱を強く放つ
すでに汗ばんでいる
そして儀式が始まる

溶岩に水が掛けられ
ロッジに高熱の水蒸気が充満するとともに
祈りの歌が始まる
余計なことを考えていたら耐えられなくなる予感がして
必死に歌い意識を集中させようとする
ロッジに入る前に練習した歌詞は全く思い出せない
それでもすがるようにしてウーアーと声を出す

儀式が進行していく
「まず東の〇〇を呼び寄せる、、、」

たぶん10分位したところで苦しみが始った

熱い
ほんと熱い
出来ればやめたい
外に出たい

苦しみが湧いてくるたびに
できるだけ考えないようにして必死に戦う
それでも熱い
熱い熱い熱い、、、、

「ロッジの上の方が熱いんだよ」と
経験者が話していたのを思い出し
姿勢を低くする
それでも熱い、姿勢も苦しい
ううう、、、苦しい

「東の〇〇に感謝します」

!!!
待ってくれ!
今ので東ってことは
東西南北
第1ラウンドがまだまだ続くってことか!
全部で4ラウンドと言っていたのに
これでは死ぬ!!!
そう絶望したところで
入口が空き
中の温度が少し和らいで
柄杓で水が回された

水を飲んで何とか息を吹き返す
少し意識が戻る
そしてまた始まる
もう最初のような体力はない
死ぬと感じた感覚を思い出し
無理だ!という思いが湧いてくるのを
もう一度飲み込む

容赦なく更に溶岩が投げ込まれる
いやいやいやいやいや!!
無理でしょ!無理でしょ!
もはや恐怖に近い
新たに投げ込まれた溶岩は
最初に投げ込まれたものよりも
さらに長い時間火に焼かれた分だけ赤く
暗闇の中でもゆらゆらと炎がゆれるのが見える

これは一体なんなんだ?
どうしたらいいんだ!???
もうこのままではいられない!!!

苦しみで自分がいっぱいになる

そうだ!思い切って戦ってみよう!
身体を起こしむしろ溶岩へ近づいてみる
これがいけなかった

あつい!!!!
退け反って元の姿勢に戻っても手遅れ
熱い熱い熱い
もう無理もう無理
止まらなくなる

助けて、、、

弱音を吐きたくなる
でもそんなこと口にしちゃいけない
思いが交錯する
思考があふれる

もうどうにもならない
そうだ声に出してみよう
思いついたらもう考えている余裕もない

助けて

つぶやくように声にだしてみる

助けて

助けて助けて

見えない天井に向けて声を出す

そして一瞬、、、何かを観た

そして分かった

僕の両親は共働きで
その会社がつぶれて
僕は両親を助けるために会社を始めた
僕は両親を助ける側で助けてもらう側ではなかった
幼い頃から後継者として育ってきた過去も
両親を助けるためだったという思いに繋がっていた
僕は助ける側で助けてはもらえない
だから僕は失敗してはいけない
誰も助けてくれないのだから

僕は助けてと言うことを両親に許してほしかったんだ

助けて!助けて!助けて!

今度ははっきりと声に出して言った

すると誰かが「大丈夫だよ」と応えてくれた

僕はもう遠慮することやめて
助けて!助けて!と繰り返した

今度は「ハートと共にいて」という声が聞こえ

ハートを意識しながら助けて!と言うと
大丈夫だよ!という言葉が内側から湧いてきた

助けて!大丈夫だよ
助けて!大丈夫だよ
自分で繰り返す

それで収まるのかと思いきや
溶岩の熱さは更に増していく
新たな真っ赤な溶岩がどんどんくべられる

僕はもう戦うことも頑張ることもできず
助けてと何度も言いながら
もう無理もう無理というエゴの声に従うことを選んだ

隣に倒れている仲間のように
僕も倒れこみ
できるだけ溶岩から遠ざかり
もう遠慮してる場合じゃないと
必死に逃げる
人の背の陰に身体を滑りこませる

狭いロッジの中
いくら倒れこもうとしても
どうしても身体に無理がかかる体勢になる
でも力を抜ける体勢になればなるほど
苦しみが和らぐのが分かって
最後はほとんど力の入るところのない
寝転がった体勢になった

急に安堵が訪れる
あぁなんて楽なんだ、、、
エゴに従い周りより自分を優先するなんて!
でもすごく助かった
エゴに助けてもらった
エゴありがとう!
エゴは身体を守っているって本当だった

助けてと声を出しても楽にはならなかった
そして僕は自分が失敗することを自分に許した
エゴに従うことを自分で選択した
僕を許すのは両親じゃなくて僕自身だったんだ
僕を助けたのは僕だった

やがて第2ラウンドが始まった

第2ラウンドは祈りのラウンドだった

僕の番が回ってきたとき
僕は両親への感謝を祈った
それは長い時間をかけてようやく辿りついた感謝だった
そして自分のcallingは何かという問いを祈り
自分の命の道を歩ませてくださいと願いを祈り
その道を歩みますと約束を祈った

「失敗が許される会社にする」
「私が会社で失敗するのを許す」

心に浮かんだ答えに
あぁそうだったのか
と思った

長い長い第2ラウンドを終え
第3ラウンド、そして最終の第4ラウンドへと進んでいった

僕は相変わらず寝転がったままで
エゴの声に従ったまま自分を甘やかし
心地よさの中にまどろんでいた

最終ラウンドは残りの全ての溶岩が投入される
新たに30個ほど投入された溶岩は
悪夢のように更に熱い

僕はもう一度身体を起こしてみた

熱い

しばらく熱さの中にいる

そしてまたエゴの声に従うことにしようと決め
寝転がった

エゴの自分を感じながら
選択できる感覚を感じた
エゴと共にいる自分がいるのを感じ
それでエゴを選択するのを許した

ようやく儀式が終わる時がきた
痺れる身体を引きずるように外に出て
前日の雨で田んぼのようになった
泥の中に身を投げ入れた

冷たくて気持ちよかった
ずっとずっと泥の中に寝転がって
あぁ幸せだと何度もつぶやいていた

暗闇の中
青いアゲハ蝶をみた気がした
僕の周りをずっと飛び回っていた

翌日シェアリングの時間に驚いたことがあった
参加した男性は僕を含めほとんどが
途中で倒れて意識を失っていたというのに対して
女性のほとんどが
最後まで意識を保ったままだったというのだ

なぜ女性だけ???

そしてシェアを聴きながら
何だかその理由が分かった気がした

自分の力では抗いようもない苦痛
僕には初めての経験だった
「自己変容の場は沢山あれどスウェットロッジだけは儀式なんだ」
主催者が言っていたことが身に染みるほどの過酷さだった
さまざまな研修で苦しいワークは経験したが
逃げることも抗うこともできない感覚の中に
あれほど長く居続けることは他にはなかった
普段の生活ではなおさらだ
そもそも苦しまないように回避している

でも女性には月経がある
毎月自分ではどうにもならない不快感や痛みに見舞われる
受け容れざるものを受け容れる
それが明け渡す力になっているのではないか
それがスウェットロッジの過酷な苦しみを
受け容れ明け渡すことにも繋がっていたのではないか
そう思うと腑に落ちる気がした

僕が苦しみの中で助けを求めたとき
「大丈夫だよ」「ハートと共にいて」
と声をかけてくれたのも
女性の声だった

逃げようのない抗いようのないものを前にしたとき
受け容れること、明け渡すことしか力にならない
それがこの体験で感じた初めての力だった
その力は女性の方に強く備わっている
そしてその力を発揮した女性から
力を分けてもらって男性は新たな力を得る
そういうことなんだろうと思った

そんなことを考えていたら
あることを思い出した
妻が2人目を出産するときのことだ

1人目の時は東京で産んで
僕は出産に立ち会った
でも2人目は里帰り出産を選んだので
僕は夜に産気づいたと連絡をうけて
始発の新幹線で妻のもとに向かい
タクシーを降りてからも走って病院に辿り着いた
そして妻の顔をみた瞬間
「なんだ、まだじゃん」と言った
すると烈火の如く怒りに満ちた妻に
「出ていけ!」と罵られ
結局、僕はわざわざ始発で飛んできたのに
廊下で産声を聴くことになった

後日、僕は1回目の出産を見ていたから
妻の表情をみて出産に間に合った!
と思っただけだと弁明したが
一切受け容れてもらえず
何がまずかったのか結局理解できないままだった

でもスウェットロッジに入って10分位で
絶望を感じていたあの時に
もし「まだまだ始まったばかりこれからだよ」
などと言われたとしたら
そんなこと考えたくもない!
余計なことを考えさせるようなこと言うな!
と怒っていたことだろう

男性は月経も出産も経験することがないから
本質的なところで受け容れる、明け渡すというものを
分かるのは難しいのかもしれない
でもスウェットロッジのような儀式を通して
受け容れる力、明け渡す力を培っていくことができるのかもしれない
そしてそれはこの時代
これからの意識といわれる時代のなかで
新たな力として認識される力なのだと思う

死と再生の儀式
と呼ばれるスウェットロッジ
どちらかというと死の体験がメインだったけど
死が感じられなければ再生はない
歌を思い出すだけで細胞の熱さを思い出すほど刻まれた
二度とない?体験として
ここに感謝を祈る

ありがとうございました

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